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原始性テーマに大作 10点 『杉吉 篤展』
『杉吉 篤展』
木片を思わせる顔、骨だけの足、鉄製パイプの角…動物の生命誕生の秘密や経過を示すような作品10点を発表。03(平成15)年の全道展で会員推挙になった作品から近作までをそろえ独自性をアピールしている。1981(昭和56)年の初個展以来29回目の個展。
「原始性がテーマです」。『遠い記憶』をタイトルにアクリル絵の具で描いた大作は、馬のような、牛のような何とも不思議なフォルムで化石を連想させる動物が、白っぽい空間に画面いっぱいに浮き出るように描かれている。
いずれも無機質で無表情。だが何かを訴えるような雰囲気がある。
作品 『消えた惑星』 は顔は木片、角は鉄製のパイプ、『生きる』 は口に丸太状の木、頭には木の葉、『進化』 は板状の顔、足も胴体も骨、中には亀の甲羅を背負ったような動物も。それらがシンプルに、乾いたような深い質感で入念に描かれている。
「インパクトがあり分かりやすい絵を心がけている」―。描かれている想像の世界の動物たちから、生命の起源を考えさせている。
札幌市東区本町1条1丁目、茶廊法邑ギャラリーで2月7日まで。
◆ 写真はアクリル絵の具による作品 『進化』 (100号)
すぎよし あつしさん
かつてはカラフルで楽しい雰囲気の作品を発表していた。02(平成14)年に自由美術展で佳作賞を受賞した作品から原始的な“動物シリーズ”に。「記憶以前の記憶です」。1979年から1年間フランスに滞在、帰国した翌年から個展、グループ展で発表。個展は東京でも。全道展で1984年佳作賞、86年と87年に奨励賞。URBANART展で1992年リキテックス賞、95年北エリア賞。さっぽろ美術展、寒別グランドアート展(倶知安町)などに出品。墨絵画家の杉吉貢氏(滝川市)は実兄。全道展、自由美術協会会員。1960年空知管内由仁町生まれ。札幌市白石区北郷3条8丁目4の5の403。
(美術ジャーナリスト 五十嵐 恒)
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118点が新春の書競う 『創人かきぞめ展』
118点が新春の書競う
『創人かきぞめ展』
書道研究 『創人会』(金津雪華さん主宰)が、1963(昭和35)年に第1回展を開いて以来毎年開催しており、今年で第48回展。一般の部でベテランの無鑑査の15人から学生の部で特選になった4歳の女の子まで118点が展示され、新春の雰囲気を広げている。
一般の部は無鑑査のほかAコースとBコースに分かれ、無鑑査への登竜門であるAコースでは6人が特選に。この中で小倉婦左さん(千葉県)が今回で5回目の受賞となり無鑑査への昇格が決まった。
作品は半切で漢字の創作が中心。個性豊かに書き上げている。
学生の部は中学生から幼年。特別賞は『飛翔』と力強く筆を走らせた北村華子さん(札幌市・広陵中2年)に贈られた。北村さんは、昨年『推薦』を受けている。
一般の部Aコースで特選となった古池希風さん(栃木県)のお孫さんの服部真由子さん(小学6年)、服部こうまさん(同2年)が入選、幼年の部はっとりきせいちゃんが秀作、学生の部の中学部で特選の長南真生さん(札幌・南円山中3年)、小学6年で特選の長南有美さん(南円山小)、小学3年で秀作の長南実来さん(同)は3姉妹。ほかにも兄妹や姉妹の入賞・入選がありホットなムード。
31日午後4時から表彰式が行われる。
Aコース特選の6人は下記の通り(敬称略)。
古池希風(栃木県) 杉野富美子(札幌) 小倉婦左(千葉県) 板垣晴江(美唄) 谷尾早苗(札幌) 川原木笑美子(同)
札幌市中央区南2東6、札幌市民ギャラリーで31日まで。
◆ 写真は、学生の部の特別賞、推薦の作品と贈られる盾、賞状
(美術ジャーナリスト 五十嵐 恒)
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個性豊かに水彩画63点 『道彩会会員会友展』
個性豊かに水彩画63点
『道彩会会員会友展』
本道の水彩画の底辺拡大に貢献している北海道水彩画会 (小堀清純代表運営委員長) が、1982(昭和57)年から毎年開いている水彩画展。今年で29回展。八木保次特別会員を始め会員、会友合わせて63人がA・B・C3室に出品、個性を競っている。80号の大作から20号、30号が中心。
水彩画とはいっても風景、静物、人物の具象絵画から心象、抽象構成まで幅広い。しかもクレパス、アクリル絵の具、ジェッソなども使い、かつてのきれいな水彩画のイメージから脱却している。今回は、段ボールに描いたコラージュの作品も。
作品は、バラエティーに富み、それだけに見ごたえもある。
昨年の第29回道彩展で門崎幸子、橘弥生さん(ともに札幌)が会員推挙、小林ゆかり、鳴海ヒロ子(江別)、小杉千賀子、高橋欣也(札幌)、野尻勉(函館)の皆さんが会友推挙に。
門崎さんは静物の 『Bottles』 を力強く生き生きと、橘さんは風景の 『冬ざれ』 を森閑とした空気感で描いている。
馬場由美さん(札幌)の 『綿秋』 はうねるような力強い筆勢、武田輝雄さん(同)の 『初秋の富良野』 は明るい色彩で大きなスケール、沢口キエさん(浦河町)の 『ぼたん雪ふる(かかし)』 は楽しい雰囲気…それぞれが感性豊かに描いている。
道内の公募展に入賞・入選している人が多い。25日には、札幌時計台ギャラリーが出賞する 『みず賞』 の授与式もあり盛り上がった。
第30回記念展が、9月に札幌市民ギャラリーで開かれる。
札幌市中央区北1西3、札幌時計台ギャラリーで30日まで。
◆ 写真は、会員 橘弥生さんの作品 『冬ざれ』 (40号)
(美術ジャーナリスト 五十嵐 恒)
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女性6人の油彩の競作 『春への序奏』展
『春への序奏』展
道展で将来が期待されている女性アーティスト6人が、油彩の100号から150号の大作を中心に10点を出品、個性豊かな作品の競演になっている。意気込みが伝わってくる。
6人は、昨年の道展で会友賞を受賞、会員推挙になった新出リエ子さん、会友の阿部正子、秋山久美子、塚崎聖子、斉藤順子、古畑由理子の皆さん。斎藤さんが旭川市在住である以外は、札幌市在住。
阿部さんが、07年(平成19)年に協会賞を受賞するなど全員が会友賞や佳作賞を受賞しており取り組みが高く評価されている。その6人による、大作をそろえた作品展は初めて。
新出さんの 『継』 シリーズは、枯れたひまわりをモチーフに強い生命力を強調、斎藤さんの 『箱舟“心配のない世界Ⅱ”』 は、おとぎの国のような楽しさがあり、秋山さんの 『気流』 シリーズは、女性が気流に乗って空中へ向かう喜びを大きなスケールで展開している。
塚崎さんの 『空を飛ぶ練習(広場)』 は、空を飛ぶ練習をする天使の姿に夢があり、古畑さんの 『ひだまり』 は、リズミカルな色彩の中に浮き出る男性の存在感が印象的。
阿部さんの 『予感Ⅱ』 は、鳥や植物群など南国調の情緒の中で夢を見るような女性像を丁寧に描き、色彩も美しい。
6人の感性と技量が発揮されている。
札幌市北区北9西3、ギャラリーエッセで31日まで。
◆ 写真は、塚崎聖子さんの油彩 『空を飛ぶ練習 (広場)』 (150号)
(美術ジャーナリスト 五十嵐 恒)
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『さわやかないやしのアート』 ~佐藤 みき展~
~佐藤 みき展~
「念願の札幌展です」―。旭川市出身。東京でイラストレーターとして活躍しており 『こんにちは さっぽろ』 をサブタイトルに、ほのぼのとした情緒の作品70点を会場の2室に発表、ホットな雰囲気を広げている。郷里旭川では、今年8月にも個展を開くが札幌では初めて。
和紙に版画用の油性絵の具で描くという独自に工夫した絵画。それは、窓から見える青空や夕焼けを見ながら2匹の猫が会話をし、風に流されるように花が舞い、カーテンが揺れる…そんなメルヘン調の内容。猫は影のような後ろ姿であり、花はチューリップやコスモスを思わせるものもあるが、多くは 「好きな花…」 という独自の造形美。
複雑な色彩の組み合わせで明るくソフトに表現、一見和紙絵を思わせる気品と雰囲気。
作品にタイトルは無いが、窓から見える空の広がりの中に風が揺れる花、無邪気な猫の姿があり、さわやかで楽しい会話が聞こえてきそう。
はがき大サイズから8号クラス。版画もある。いやしのアートと言える。27日から新さっぽろギャラリーでも開く。
札幌市北区北8西1、石の蔵ぎゃらりぃはやしで26日まで。
◆写真は、ソフトな情緒の作品(28㌢×40㌢)
さとう みきさん
「札幌で高校時代の友達に会うのがとても楽しみです」。01年に旭川で初個展を開いて以来東京、旭川で毎年開催、昨年は横浜でも。今年も3月、7月に東京で開く。 「自分の子どもに手作りの絵を見せたいと思い描いた」 のがきっかけ。林真理子のエッセー集 『今夜も思い出し笑い』 のカットを1984年から03年まで19年間担当したほか月刊誌、単行本のカットや装丁を担当。『園児のグッズとカンタン服』 という著書も。今年9月から新聞小説の挿絵も描く。旭川北高卒。1954年旭川市生まれ。東京都杉並区在住。
(美術ジャーナリスト 五十嵐 恒)
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国際色豊かに1736点 『第41回国際現代書道展』
『第41回国際現代書道展』
昨年の第40回展まで全道書道展(北海道書道協会主催)として大規模な公募の書道展を開いていたが 「今後は書道文化を世界に発信したい」 として名称を国際現代書道展に変更して開いた第1回展。海外から中国、韓国、台湾を始め英国、ロシアなど10ヶ国から48点の応募があり入賞・入選作品が展示されているほか、21人による中国現代書壇巨匠展、小・中学生が中心の瀋陽市書画芸術訪日団作品展も開かれ、国際豊かな書道展になっている。
応募総数は1998点。このうち審査会員、会員、会友と公募の入賞・入選作品、海外からの作品など合わせて1736点が全館にあふれんばかりに展示されている。
最高賞の文部科学大臣賞は、北海道書道協会理事長小原道城氏の作品に贈られた。
今回展の最大の特徴は、書道の国際化。本道の書家は中国、台湾などを訪れて交流を進めているが、海外の書家も対象にした公募展は、全国的にも無いとされている。
初日の20日に行われたオープニングセレモニーで中国札幌総領事館の胡勝才総領事は 「文化は国境を越えた架け橋であり、日中両国の書家の交流が一層深まることを期待する」 と語り国際書道展への期待を示した。
連日、審査会員による作品解説、23日に表彰式と祝賀会、24日は上位入賞者による席上揮ごう、中国瀋陽市少年宮の小・中学生と道内の小・中学生による席書交流会など多彩なイベントが開かれる。
主催の北海道書道協会・小原道城理事長は 「国際展へ大きく羽ばたいて行きたい」 と語っている。
◆写真は、左から2番目の作品が最高賞の小原道城氏の作品
札幌市中央区南2東6、札幌市民ギャラリーで24日まで。
(美術ジャーナリスト 五十嵐 恒)
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『段ボールを独自のアートに』 ~ひろ・くわおり暖ボールアート展~
~ひろ・くわおり暖ボールアート展~
「脇役的な素材の段ボールに光を当てて暖かい風を吹き込む作品にしたい」―。どこにでもある段ボールに絵を描いた 『段ボールアート』 を独自に確立して7年目。一昨年4月に次いで6回目の今回の個展でも風景、花、人物を描いた作品18点を発表、本領を発揮している。
「全国的にもこのような作品を発表している人は他にいない」―。不用になった段ボールを版画と描く技法で独学で確立した独自のアート。段ボールの表面をカッターナイフで切り、そこに「出来るだけ色を使わない」ことを基本に白の修正インクと黒のポスターカラーで彩色、場合によってはアクリル絵の具も使って作品を作り上げている。
比較的カラフルで花を描いた 『雪と花と蝶』 といった作品もあるが、基本的にはモノトーン調。しかも冬景色が多い。
樹齢780年という札幌市南区小金湯にある雪をかぶった桂の木を描いた 『黄金湯の赤い月』、角巻き姿の老いた母を描いた雪の中の 『夢みる初春』 など、作者の温かい思いやりを感じさせる。6号から10号クラスが中心で軸装スタイルの作品も。
札幌市中央区大通西13、札幌市資料館ミニギャラリーで24日まで。
◆写真は、葛飾北斎の絵をアレンジした作品
ひろ くわおりさん
03年から暖ボール画家を目指し、翌年に札幌で初個展。07年に名古屋で開き、今年4月には初めて東京での開催が決まった。「版画ですかとよく聞かれる」そうで「世界に広めたい。イメージがわいたら一気にカッターで切っていく」。勢いが大切だという。昆布と昆布を素材にした調理品を販売している 『こんぶ屋』 のオーナー。05年に出版した 『昆布ものがたり コンブに賭けた第二の人生』 が新風社(東京)のノンフィクション部門で最優秀賞を受賞。06年に昆布巻きで、道から『北海道らしい食づくり名人』の認定を受け、講演会活動も多い。本名桑折広幸。1950年日高管内えりも町生まれ。札幌市中央区南12条西15丁目2の2。
(美術ジャーナリスト 五十嵐 恒)
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『表情豊かな地蔵の作品35点』 ~柿沼 忍昭「初地蔵」展
~柿沼 忍昭「初地蔵」展~
「新年なので地蔵の絵をそろえました」―。「座禅をし、精進料理を研究、絵や書を楽しむ」という僧侶である作者が、地蔵を描いた作品35点を会場いっぱいに展示。1996年の初個展以来30回以上。24日には、会場で初地蔵説法の会も開く。
絵は独学で書は3段の腕前。庶民の願いをかなえる、とされている地蔵を画仙紙に墨と筆で描き言葉も書き、多彩な表情に仕上げている。「お会いした多くの方がモデルになる」そうで表情がみんな違う。
禅の言葉を表した『愛』 『願』 『是』 などの一文字地蔵、『無病息災』 『恋愛成就』 の地蔵、あるいは『地蔵菩薩』 さらに「複雑な世の中を見通したい」という『のぞき地蔵』…バラエティに富んだ地蔵がユーモア性を秘め、人情味豊かに描かれている。
地蔵のほっぺやよだれかけなどを赤く彩色、アクセントをつけている。「赤は魔よけの意味がある」―。
地蔵を描いた福袋、地蔵はがき、地蔵を描いた名刺を100枚以上もファイルした作品…いずれも語りかけるような雰囲気で心を和ませる。
札幌市西区琴似2の7、メシアニカルビル地下1階、ソクラテスのカフェーギャラリーで2月7日まで。
◆写真は、数々の地蔵の作品(40㌢×16㌢)
かきぬま にんしろうさん
「年末年始返上で仕上げた。地蔵の作品を見ると私自身ホッとする。全国的にも私のような坊さんはいない」。個展は03年から06年まで米・サンフランシスコでも。昨年発刊した禅と食事と心を書いた著書『典座教訓』、アートを中心にした『大丈夫』が増刷した程の人気。静岡県熱海市の寺院から住職の声がかかっており「いずれそういうことになる」。1976年20歳で出家、その後永平寺(福井県)で修業。1981年札幌へ。1993年に寺子屋虹庵を開いた。駒沢大学仏教学部卒。1956年神奈川県生まれ。札幌市北区新琴似11条13丁目2の15。
(美術ジャーナリスト 五十嵐 恒)
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『心和む動物、植物の木彫』 ~岩間 隆作品展~
~岩間 隆作品展~
「木と遊んだり遊ばれたり、彫刻刀を風のように走らせるのが心地よい」―。木彫の世界に入って44年目。大作のチェスと(たんす)、椅子・テーブルセットを始め『時を忘れて』シリーズのフクロウ、猫を彫った時計、ブドウの葉を形取った大小の皿、キャベツなど野菜の木彫レリーフ…大小80点を発表。会場にホットな雰囲気が広がっている。個展、グループ展は数多く、昨年も1月に三越札幌店で個展を開いた。
フクロウ、ブルドック、犬、猫…「モチーフにして20年ぐらいになる」という動物を中心にバラの花、各種野菜、麦の穂、ブドウの葉などを大小の彫刻刀を使い分けて彫り上げている。中でも動物は、その表情に愛きょうがあり親近感が漂う。
ブルドックの大作『哲学するブル・親父』は、堂々とした風格の中にもユーモアを秘め、「自宅で飼っている」という猫をモデルにした作品『すやすや』『ぽかぽか』は、心を和ませ、フクロウなどの時計は、目の表情がほほえましい。素材はクルミが中心。花、野菜、りんごなどは染料で彩色してアクセントをつけているなど木のぬくもりと同時に作者の優しさが伝わってくる。
札幌市中央区南1西3、9階三越ギャラリーで18日まで。
◆写真は、猫の背にバラの花が見える木彫 『ぽかぽか』(27㌢×30㌢)
いわま たかしさん
「最近は、木の声を聞きながら森と対話するような感じで作品と向き合っている」。1966年に木彫を始めたベテラン。1974年から85年まで道展に入選、89年に名古屋で開かれた世界デザイン博に入選、97年日象展に入賞。個展、グループ展を毎年続け、今年も2月に三越広島店、3月同名古屋店でグループ展がある。プロ作家の創作集団『サッポロクラフトTAG』を05年に結成、代表に。定山渓病院(札幌)、千歳総合福祉センターなどの壁面レリーフを制作。アトリエ十夢(とむ)主宰。1945年札幌市生まれ。札幌市西区琴似4条5丁目4の26。
(美術ジャーナリスト 五十嵐 恒)
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『歩み示す平面の作品100点』 ~楢原 武正展~
~楢原 武正展~
毎年、会場いっぱいにダイナミックなインスタレーションを発表、訪れるファンを圧倒しているが、今回は一転して油彩の大作など平面の作品100点をずらりとそろえ、エネルギッシュな取り組みを見せている。1975年から今年の新作までを展示、その“変化”が興味深い。はがき大サイズから150号。
十勝管内広尾町生まれの作者が、十勝開拓の風景をイメージ、1990年から『大地/開墾』をテーマに木材など各種廃材を活用した立体構成のインスタレーションを発表してきた。同時に平面の制作も続けていた。
今回は「これまでの作品を振り返ってみたかった」として、平面の作品だけを広い会場いっぱいに制作順に展示した。
34年前の1976年から個展を開いた。その頃の油彩は風景や遊園地で遊ぶ子どもたちを色彩豊かに力強く描いているが、長女を5歳の時に交通事故で失って以来、抽象のモノクロ調に。冬の風景をイメージさせる作品が多い。
時が進むに連れて『黒の惑星』『北の大地』シリーズに。キャンバスではなく鉄板に針金、クギなどの廃材を張りつける、といったインスタレーション的な雰囲気に。その歩みがよく分かる。
札幌市中央区大通西5大五ビル、ギャラリー大通美術館で17日まで。
◆写真は展示されている油彩の大作
ならはら たけまささん
「私は、何のしがらみもなく、自由自在にやってきた。インスタレーションを発表した当初は、まだその言葉もなく笑われたこともある」。1984年にはインスタレーションを東京で発表した。ダイナミックな取り組みに定評があり個展、グループ展は毎年。1984年行動美術展で柏原記念賞、85年行動美術賞、86年北海道の美術『イメージ・群』で新人賞、91年北の創造者たち『金属フィールド・今』で芸術の森美術館賞などを受賞。北海道立体表現展、札幌の美術20人の試み展など多数に出品。1942年十勝管内広尾町生まれ。札幌市中央区南8条西13丁目。
(美術ジャーナリスト 五十嵐 恒)
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『草花の生命力を美しく』 ~なおい かずこ写真展~
~なおい かずこ写真展~
「散歩道で出会う草花や自然現象がつくり出す表情がとても好きです」―。植物写真家の作者が、四季の変化の中で多彩な表情を見せる草花や木の実を、いとおしむようにとらえた写真32点を発表。題して『植物からの贈り物』。強く、美しい生命力が強調されている。
花、木の実、葉、雪の結晶、霜、水滴…自然が織りなすバラエティーに富んだ表情をソフトで美しい色彩で表現している。
「自然の目がカメラのよう」と語り、被写体に接近してシャッターを切る。それらは特別なものではない。散歩中に見た小さな “生命力と美” に感動して撮ったものである。
表情をアップしてとらえている。氷の上の霜がシダの葉状に広がった作品『霜の結晶』など3点がモノクロ調である以外はカラー。タンポポの種子が水滴の中に見える『たんぽぽのたね』、ピンクの花が幻想のように浮く『シラネアオイ』、無数の水滴が光る『ルピナスに露』…自然がつくり出す不思議さと神秘感を見せている。
全紙サイズからキャビネ版。毎年この時期に個展を開いている。
札幌市豊平区中央通9丁目3の16、ギャラリーパレ・ロワイヤルで30日まで。
◆ 写真は 『モミジの上に雪の結晶』 (キャビネ版)
なおい かずこさん
キャリア20年。『草花日和』(07年)、『植物季』(08年)など一貫して植物の美と生命をテーマに発表している。昨年、文芸社(東京)主催のビジュアルアート出版社賞写真部門で個性派賞を受賞、同社から写真集『植物からの贈り物』が今月末に発刊され全国の書店に並ぶ。「念願の写真集です」。1995年花の美術館大賞展、96年ライブラリー企画写真展に入賞、99年女性だけの写真展で準優秀賞を受賞。1994年東京から札幌に転居。『花写真ギャラリーグーズ・ガーデン』主宰。法政大学社会学部卒。東京都生まれ。札幌市豊平区福住1条2丁目1の1の101。
(美術ジャーナリスト 五十嵐 恒)
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死去したゴリラの『ゴン』を追悼 ~おがさわら み蔵木彫展~
~おがさわら み蔵木彫展~
「今年も元気に楽しく彫り続けられたら幸せ」―。昨年は『木彫三昧 古希からの再出発』をテーマに道内外で精力的に発表を続けた。今年の初個展は、札幌市円山動物園で入園者の人気を呼び、昨年11月1日、婿入り先の京都市動物園で38歳で死去したニシゴリラ『ゴン』を追悼した木彫展に。『ゴン ありがとう!』をテーマに、ゴンの作品5体を中心に『円山動物園の仲間たち』やブタの『トンちゃん地蔵』などを発表している。
木彫歴ほぼ30年。その作品はゴリラ、猿、豚、ペンギンなど動物が中心。中でもゴリラは「1985年ぐらいから」というキャリアで、1996年には、ゴリラの作品が100体を超えたことから作品集『木彫ゴリラ図鑑』を発刊している。
作品の多くは、円山動物園の各種動物がモデル。死去したゴンのスケッチも多数ある。
祭壇をイメージさせる展示台にスイカを食べていたり、天井に手足を向けたポーズのゴンの作品が並び、さの手前に地蔵姿の豚が40点。さらに猿、キリン、サイなど円山動物園の動物たちが展示され、文字通りゴンの追悼展になっている。
札幌市中央区北8西1、石の蔵ぎゃらりぃはやしで12日まで。
◆写真はゴンの木彫と『トンちゃんの地蔵たち』 (手前)
おがさわら みくらさん
「ゴンの追悼式に出席したが涙が出た」。1974年デンマークから円山動物園にやって来た。「随分モデルになってくれた。人間の年齢で言えば60歳に近かった」。今回の作品は、2ヶ月足らずで彫り上げた。「正月返上だった」。かつて道警音楽隊でオーボエを吹いていたが退職、約3ヶ月ヨーロッパを回り、独学で木彫の世界へ。東京、名古屋を始め札幌、函館、旭川、帯広などで毎年個展、今年は2月にも札幌で開く。1984年に写真集『ウッディ・愉快なトン・とん・豚』を発刊。「健康で楽しく」がモットー。1939年渡島管内福島町生まれ。札幌市西区平和2条11丁目1の32。
(美術ジャーナリスト 五十嵐 恒)